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大阪高等裁判所 平成11年(ネ)3270号 判決 2000年6月30日

控訴人(被告) Y

右訴訟代理人弁護士 佐藤義彦

被控訴人(原告) 京都信用保証協会

右代表者理事 A

右訴訟代理人弁護士 芦田禮一

井木ひろし

伊藤知之

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一本件控訴の趣旨

一  原判決を取り消す。

二  (本案前の申立て)

本件訴えを却下する。

三  (本案の申立て)

被控訴人の請求を棄却する。

四  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

第二事案の概要

本件は、信用保証協会である被控訴人が、主たる債務者に対する代位弁済による求償債権につき連帯保証した控訴人に対し、連帯保証債務の履行を求める訴訟について、原審裁判所が全部認容の給付判決をしたところ、控訴人が、右連帯保証債務は主たる債務の時効消滅により消滅した、右訴訟は前訴の確定判決が存するから訴えの利益を欠くなどと主張して、控訴を申し立てた事件である。

(前提事実)

一  請求原因(当事者間に争いがない。)

1 被控訴人は、B(以下「B」という。)の委託により、平成元年三月三〇日、Bとの間で、次の内容の信用保証委託契約を締結した。

(一) Bが京都中央信用金庫(西五条支店)から金員を借り入れるにつき、被控訴人は貸付金一〇〇〇万円の限度でBのために信用保証協会法に基づく保証を行う。

(二) 被控訴人がBのために代位弁済したときは、Bは被控訴人に対し、直ちにその弁済額とこれに対する弁済日の翌日から支払済みまで年一四・六パーセントの割合による損害金(年三六五日の日割り計算)を支払う。

2 控訴人は、右保証委託契約の締結に際し、Bが同契約に基づき被控訴人に対して負担する一切の債務について、連帯して保証する旨を約した。

3 被控訴人は、右信用金庫に対し、平成元年三月三一日に信用保証書を発行することにより、追認による保証をした。

4 Bは、平成元年三月三〇日、右信用金庫から次の約定で一〇〇〇万円を借り入れた。

(一) 利息 年六・二パーセント

(二) 返済条件

元金 平成元年四月から平成六年三月まで毎月末日限り一六万七〇〇〇円ずつ(最終回一四万七〇〇〇円)分割弁済

利息 借入日を第一回として、以降毎月末日までに翌月末日までの分を前払い

(三) 期限の利益の喪失

債務の一部でも履行を遅滞したときは、右信用金庫の請求により期限の利益を喪失する。

5 Bは、右信用金庫に対し、元金一〇〇万二〇〇〇円と平成元年一〇月三一日までの利息を支払ったが、その余の支払いをしなかったので、右信用金庫の請求により、平成二年二月一日期限の利益を喪失した。

6 被控訴人は、平成二年三月一九日、右信用金庫に対し、次の金員を代位弁済した。

(一) 元金 八九九万八〇〇〇円

(二) 利息 一二万三六五九円

(三) 合計 九一二万一六五九円

7 その後、被控訴人は、別紙「一部弁済ならびに損害金計算表」のとおり弁済を受けた。

8 よって、被控訴人は控訴人に対し、連帯保証契約に基づく保証債務の履行として、次の金員の支払いを求める。

(一) 求償債権元金 八三九万八八九三円

(二) 平成五年三月四日までの確定損害金 三七四万五五三六円

(三) 右(一)の求償債権元金に対する同月五日から支払済みまで、約定の年一四・六パーセントの割合による損害金(年三六五日の日割り計算)

二  本件債権の消滅時効期間

Bのした被控訴人との保証委託契約の締結や京都中央信用金庫からの借入れは、商人としてその運転資金を賄うためのものであるから、被控訴人のBに対する求償債権(以下「本件債権」という。)は、商事債権として五年の消滅時効にかかるものである(甲二、弁論の全趣旨)。

三  確定判決の存在と再訴の提起

被控訴人は、平成六年、控訴人を被告として、本件債権についての連帯保証債務(以下「本件連帯保証債務」という。)の履行を求める訴訟を京都地方裁判所に提起し(同裁判所平成六年(ワ)第一一二〇号、以下「前訴」という。)、同年六月三〇日、これを全部認容する給付判決を得、同判決はそのころ控訴期間の満了により確定した(甲三、弁論の全趣旨)。

しかるに、被控訴人は、本件債権の消滅時効を中断し、控訴人からの右時効援用による本件連帯保証債務消滅の抗弁を防止する必要があるとして、平成一一年六月二四日、再度、控訴人に対し、前記のとおり本件連帯保証債務の履行を求めて本件訴訟(再訴)を提起した(本件訴訟記録)。

四  主たる債務者Bのその後の事情

Bは、平成元年一二月一四日に死亡したため、その法定相続人であるC、D及びEの三名全員が共同して京都家庭裁判所に限定承認をする旨の申述をし、平成二年四月二五日、同裁判所において右申述受理の審判がなされ、相続財産管理人としてDが選任された。その後、限定承認による清算手続が行われ、平成三年二月七日付で相続人らから各相続債権者に対し、民法九二九条の規定による配当弁済の通知がなされた上、同月二七日ころ、その配当弁済(配当率一・三〇五パーセント)が実施された(甲五ないし八)。

(争点)

一  本件債権の時効消滅の有無

本件債権は、被控訴人が最後に弁済を受けた日である平成五年三月四日(請求原因7)から五年を経過したことにより、時効によって消滅した(控訴人の主張。控訴人は、本件訴訟において連帯保証人として右消滅時効を援用した。)か。あるいは、被控訴人が右消滅時効の完成前に前訴を提起したことにより時効中断の効力が生じた(被控訴人の主張)か。

二  本件訴訟の訴えの利益の有無

本件訴訟は、前訴の確定判決が存在することにより、訴えの利益を欠く(控訴人の主張)か。あるいは、本件訴訟は、本件債権の消滅時効を中断する必要があるから、訴えの利益がある(被控訴人の主張)か。

第三争点に対する判断

一  争点一について

被控訴人が、本件債権につき最後に弁済を受けた日である平成五年三月四日から消滅時効完成前である五年以内に、控訴人に対し本件連帯保証債務の履行を求める前訴を提起し、その全部認容の確定判決(給付判決)を得ていることは前示のとおりである。

ところで、連帯保証人に対する履行の請求は、主たる債務者に対してもその効力を生じる(民法四五八条、四三四条)から、被控訴人が連帯保証人である控訴人に対して前訴を提起したことにより、主たる債務である本件債権についても消滅時効中断の効力を生じたものである(ちなみに、本件債権の消滅時効が、限定承認による清算手続の終了後においてもなお進行することについては、後記説示のとおりである。)。

したがって、本件連帯保証債務は本件債権の時効消滅により消滅したとの控訴人の主張は理由がない。

二  争点二について

被控訴人の控訴人に対する本件連帯保証債務履行請求債権については、既に前訴の確定判決(給付判決)が存在しているから、例えば消滅時効を中断する必要があるなど、再度の訴え(再訴)の提起によらなければその目的を達することができない特別の事情のない限り、再度の訴えは訴えの利益を欠くものとして許されないといわなければならない。

そこで、本件訴訟につき右の特別の事情が存するか否かについて検討する。

本件連帯保証債務履行請求債権は、前訴の確定判決によって確定した権利であるから、右債権が一〇年より短い短期消滅時効にかかる債権であっても、その消滅時効期間は一〇年となる(民法一七四条ノ二第一項)が、右時効期間の延長は右確定判決の当事者間にしかその効果が及ばないから、主たる債務である本件債権の時効期間について何らの影響もなく、本件債権の消滅時効期間は、依然として五年である。したがって、本件債権は、前訴の判決確定の時(平成六年六月三〇日ころ)から再び五年の消滅時効が進行するところ、右時効の完成直前である平成一一年六月二四日に本件訴訟が提起されたから、本件訴訟が訴えの却下または取下により終了しない限り(民法一四九条)、これによって、主たる債務である本件債権について消滅時効中断の効力が生じることになる。

ところで、本件債権については、前記第二の四のとおり、主たる債務者であるBの死亡後、限定承認による清算手続が行われ、配当弁済が実施されて、既にその清算手続が終了しているが、限定承認は、責任だけが相続財産の範囲に限定され、相続債務には影響のないものであり、相続債権者である被控訴人は、新たに相続財産が見つかったときは、限定承認をした相続人らに対し、その相続財産の範囲内において、本件債権の弁済を求める訴訟を提起することができるし、また、限定承認をした相続人の一人又は数人について、民法九二一条一号又は三号に掲げる法定単純承認事由があるときは、その相続人に対し、その相続分に応じて権利を行うことができる(民法九三七条)ことからすれば、本件債権につき、右清算手続の終了後は、訴えをもって履行を請求しその強制的実現を図ることが不可能となったとはいえず、また、消滅時効の進行を観念することができないともいえないから、本件債権の消滅時効は、右清算手続の終了後においてもなお進行するといわざるを得ない。そして、本件の場合は、本件債権の消滅時効期間が本件連帯保証債務のそれよりも短いため、控訴人が本件債権の消滅時効を援用すると、保証債務の付従性により、本件連帯保証債務も消滅し、控訴人はその支払義務を免れることになるので、被控訴人としては、本件債権の消滅時効を中断しておく必要が生じることになる。

しかしながら、被控訴人が、本件債権の消滅時効を中断するために、本件連帯保証債務よりも先に本件債権について消滅時効中断の措置を講ずべき義務を負っていると解することはできないし、本件において、新たな相続財産の発見や法定単純承認事由の存在に関する証拠資料が存在しないにもかかわらず、Bの相続人らに対して訴訟の提起をしなければならないとすることは、事実上、著しく困難を強いるものである。他に右消滅時効中断の方法が存することを認めるに足りる証拠はない。

そうすると、被控訴人が、本件債権の消滅時効を中断し、控訴人からの右時効援用による本件連帯保証債務消滅の抗弁を防止するためには、控訴人に対する再訴の提起という方法によらなければその目的を達することができないと認められるから、右の目的で提起された本件訴訟は、再訴を提起し得べき特別の事情が存し、訴えの利益があるというべきである。

控訴人は、本件訴訟が認容されると、同一債権について債務名義が二個作成されるため二度執行を受けるおそれがあると主張する。しかし、被控訴人の求める給付判決をするときは、請求異議事由を本件訴訟の口頭弁論終結時以降のものに限定することができ、紛争の根本的な解決に適する事情も存すること、一般的に一個の債権について二個の債務名義が作成されたからといって、当然に再度の執行が行われるわけではないし、本件においてそのおそれが増大すると認めるべき具体的な事情も全くうかがわれないこと、万が一、再度の執行がなされた場合には、請求異議の訴えにより容易にこれを排除することができることからすると、前記特別の事情が認められる本件においては、再度の執行のおそれを理由に、本件訴訟の訴えの利益を否定するのは相当ではない。

第四結論

よって、被控訴人の請求は理由があり、これを認容した原判決は相当であるから、本件控訴を棄却し、控訴費用は控訴人の負担として、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 竹原俊一 裁判官 大出晃之 東畑良雄)

<以下省略>

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